いい建築は写真ではわからない|堀部安嗣さんの建築から学んだこと
豊橋市の工務店。ニコハウス設計室代表で一級建築士の鈴木です。
先日、新建ハウジングさん主催の勉強会に参加し、建築家・堀部安嗣さんの講習会と自邸などを見学させていただきました。
堀部さんといえば、住宅建築に携わる者であれば一度はその作品を目にしたことがあるであろう建築家。
私自身も以前から作品を拝見していましたが、今回は実際の建築の中に身を置き、その空気感を体感できる貴重な機会となりました。
建築の勉強をしていると、写真や図面を見る機会はたくさんあります。
今ではインターネットで検索すれば、世界中の優れた建築を見ることもできます。
でも、やっぱり実物を見ることにはかないません。
建築は写真に写っている部分だけでできているわけではないからです。
今回、堀部さんの建築を見学して、まず感じたのは光の取り入れ方の美しさでした。
一言でいうなら、光の取り入れ方に品がある。
決して明るすぎるわけではありません。
むしろ窓は少ない。
でも、その限られた窓から入ってくる自然光が壁を照らし、室内にやわらかな明るさをつくっています。
明るい部屋をつくろうと思えば、大きな窓をたくさん設けることもできます。
でも、明るければ明るいほど心地よいのか?
そうではないことを改めて感じました。
少し暗いところがあるからこそ、差し込む光が美しく感じられる。
自然光というものが、こんなにもありがたいものなのかと感じました。
窓は大きさや数だけではありません。
どこから光を入れて、どこを照らすのか。
その設計によって、空間の質は大きく変わるのだと思います。


そして今回、最も印象に残ったのが堀部さんの自邸です。
特に心地よかったのが、建物の内側でも外側でもない、中間領域と呼ばれる空間でした。
堀部さんは、外部環境から守られた室内を「90エリア」、屋根がありながら自然にも開かれた場所を「30エリア」と呼んで説明されていました。
90エリアは、雨風や暑さ寒さから守られた快適な場所。
一方の30エリアは、屋根はあるけれど虫が入ってきたり、砂ぼこりが舞い込んできたりする場所です。
人間の都合だけでつくられた空間ではなく、自然の都合も入り込んでくる。
普通なら、虫が入らないように、砂ぼこりが入らないようにと考えるところかもしれません。
でも、そこにいると、それらがそれほど気にならない。
むしろ、その自然との距離感がとても心地よいのです。
そして大切なのは、30エリアだけがあればいいわけではないということ。
安心して快適に過ごせる90エリアがあるからこそ、自然を受け入れる30エリアが生きてきます。
暑ければ室内に戻ればいい。
寒ければ暖かい室内に入ればいい。
そんな守られた場所があるからこそ、外の空気や季節の変化を楽しむ余裕が生まれます。
逆に90エリアだけで暮らしていたらどうでしょう。
確かに快適です。
でも、快適なだけの空間は、いつか飽きてしまうのではないか。
外の空気を感じたり、季節の変化に気づいたり、少し不便なことさえ楽しめたり。
そうしたことも、暮らしの豊かさにつながるのだと思います。


弊社では、耐震等級3や高気密高断熱を標準としています。
夏は涼しく冬は暖かい。
少ないエネルギーで快適に暮らせる。
それは住まいの基本として、とても大切なことです。
でも、家の中を一年中快適な温度に保つことだけが、いい住まいの条件なのか?
今回の見学で改めて考えさせられました。
私たちは性能を高めるために、外の暑さ寒さをできるだけ室内に入れないように設計します。
でも、それは自然を遠ざけたいからではありません。
安心して過ごせる室内があるからこそ、自然に近づける場所もつくれる。
雨の日に屋根のあるデッキで過ごしたり、風を感じながら庭を眺めたり。
そんな時間が日常にあることも、住まいの豊かさだと思っています。
堀部さんの30エリアは、そのことを改めて気づかせてくれました。
最近、私自身もAIを仕事に取り入れています。
設計の考えを整理したり、さまざまなことを調べたり、本当に便利になりました。
写真から建築の特徴を分析することだってできます。
でも、今回感じた30エリアの心地よさを、AIが本当に理解できるのか。
私は難しいと思います。
風が肌に触れる感覚。
少し湿った空気。
自然光が壁を照らす美しさ。
虫が飛んできても、それほど気にならない不思議な居心地の良さ。
それらは、肉体を持つ人間だからこそ感じられるものだと思うからです。
写真を見て、言葉で説明することと、その場所に身を置いて感じることは違います。
だからこそ、時間をつくって実際の建築を見に行くことには意味があるのだと思います。


弊社の理念は『心地よい日常を創る』。
今回の勉強会は、その言葉の意味を改めて考える機会になりました。
住宅性能を高めることは、もちろんこれからも大切にしていきます。
でも、その先に何があるのか。
窓から入る一筋の光。
屋根の下で感じる外の空気。
季節によって変わる庭の景色。
そんな何気ない時間が、暮らしを豊かにしてくれるのだと思います。
今回感じた空気感をそのまま真似することはできません。
土地も違えば、お施主さまの暮らし方も違います。
大切なのは、なぜその空間が心地よかったのかを自分なりに考え、次の設計に活かすこと。
建築の仕事を長く続けていても、まだまだ学ぶことばかりです。
いい建築を見ると、早く次の設計をしたくなりますね。
今回の貴重な機会をつくっていただいた新建ハウジングさん、そして堀部安嗣さん、ありがとうございました。
